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浦和地方裁判所 昭和48年(行ウ)6号 判決 1982年5月14日

原告

松本卓

外七名

右原告ら訴訟代理人

鎌形寛之

柿内義明

田中巌

被告

行田市長

中川直木

右指定代理人

前川典和

外九名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一原告らが肩書地に居住する行田市民であること、原告武田、同石井、同蓮見を除くその余の原告らが、その主張するような土地を所有していることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告武田、同石井、同蓮見が、その主張する土地上に一時使用でない賃借権を有していることが認められ、この認定に反する証拠はない。

また、請求原因2ないし4の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、まず、本件処分に至る経緯についてみるに、<証拠>によれば、次のとおり認められる。

我国の昭和四七年度における総人口に対する公共下水道の普及率を欧米先進諸国と比較すると、イギリスが九〇%、アメリカが七一%、西ドイツが六三%であるのに対し、我国のそれは、二一%にすぎず、我国の公共下水道事業は著しく立ち遅れている。

右のように我国が公共下水道事業について立ち遅れた原因としては、戦前、農村では、し尿を肥料として使用して処理していたこと、公共下水道設置には、多額の費用を要するが、これを実施する地方公共団体において、その財源を確保することが困難であつたこと等があげられている。

しかしながら、公共下水道は、汚水、雨水の処理、排除による水質保全、住民の公衆衛生の向上等のため必要なものであるところから、政府は、公共下水道事業に対する国庫補助金として、昭和三八年度から同四二年度までの第一次五か年計画では約四四〇〇億円を、昭和四二年度から同四六年度までの第二次五か年計画では九三〇〇億円を、昭和四六年度から同五〇年度までの第三次五か年計画では二兆六〇〇〇億円をそれぞれ予算として計上し、支出していた。

ところで、行田市内には、従前から忍沼(四万m2)が存在したほか、低湿地帯が多く、これらに汚水が停滞して害虫の温床となり、また、市街地の排水路としてみるべきものがなかつたため、降雨時に雨水が路上に氾濫し、人家の浸水、井戸の汚染などがしばしばおこり、その結果伝染病が多発する有様であつた。

そこで、行田市は、昭和二五年、同市の市街地に、都市計画事業として公共下水道を設置する計画をたてることとした。右計画は、当初、同市行田、忍、佐間の各地区を対象区域とし、右区域315.614haに、公共下水道管渠、入孔等設置し、汚水、雨水を吐口に集め、忍川に放流すること、将来の汚水の量、質の変化を見込んで汚水処理場を建設すること等を主たる内容とするもので、右事業は、第一ないし第三期工事に区分され、第一期工事は、昭和二五年から同三四年までの一〇か年計画に基づいて、同市行田北裏排水路及び忍沼用水路を中心とした区域57.936ha(行田排水区)を対象とし、その見積り事業総額を一億〇六六〇万円とするもので、昭和二五年より実行に移された。

ついで、行田市は、第二期工事として、昭和三一年から同三五年までの五か年計画で、行田排水区の南側に接する行田市大字佐間字向、字平田新地、大字忍地区内の46.907ha(向排水区)を対象とし、見積り事業総額を九八八〇万円とするもの、第三期工事として、昭和三五年から同四一年までの七か年計画に基づいて、行田排水区の西側に接する行田市大字佐間、大字忍、大字持田地区の区域115.809haを対象とし、事業総額を一億六〇〇〇万円とするもの、昭和三八年から同四二年の五か年計画で終末処理場を建設するものを逐次計画し、実行に及んだ。(なお、行田市大字行田地内の人口急増に伴い、第三期工事対象区域として、同地区の一部が追加された。)

そして、右計画の実施により、昭和四六年に至り、従来の三排水区のうち行田市中央部の市街地の公共下水道工事及び終末処理場が一応竣工したため、当初計画の対象とされながら、その後、第一ないし第三期工事施行区域より除外された同市大字佐間、大字持田、大字下忍の一部81.05ha(佐間排水区)及び市街化の進行に伴い、新たに工事の必要が生じた同市大字長野地区112.52ha(長野排水区)、同市大字谷郷地内92.62ha(谷郷排水区)の区域につき、昭和五七年完成予定で、第四期工事が計画され、実施に移された。

また、第四期工事完成後は、佐間、長野、谷郷各排水区の下水は、行田終末処理場で処理されることとなつた。昭和四六年には、埼玉県営荒川左岸北部流域下水道が計画され、同流域下水道が完成(昭和六五年の予定)したときは、行田市、熊谷市はじめ埼玉県下の荒川流域に存する六か市町の下水が、ここで一括して処理されることとなつた。

なお、第四期工事と併行して、昭和四七年以降も第一ないし第三期工事施行区域内で、管渠埋設等の工事は行なわれた。

本件公共下水道事業の事業費は、当初から第三期事業までは、市費、起債、国庫補助金等の公費により賄われてきたが、前記のとおり状況下、行田市は、第四期事業の実施について総額五八億円余の費用が見込まれたので、その一部を受益者負担金で賄うべく、本件条例が立案され、昭和四六年一二月同市議会において審議のうえ可決され、同四七年七月一日より施行されることとなつた。

本件条例は、公共下水道事業に関する費用の一部にあてるため、被告が、都市計画法七五条の規定に基づく受益者負担金を徴収することを目的とするもので、受益者として、同事業の公共下水道排水区域内に存在する所有者又は地上権者、賃借権、使用借権(以上のうち、一時使用のものを除く。)及び質権を有する者をあげ、受益者負担金の総額は、第四期事業費の五分の一とし、受益者各人の負担金は、右事業費の総額を排水区域の地積で除したものに、当該受益者が所有又は地上権等を有する土地面積を乗じて得た額とすること、原則として当該事業年度に施行される排水区域について、その事業費にあてるため受益者負担金を賦課するが、右条例施行前の公共下水道事業実施区域もまた賦課対象区域とすること等の規定がおかれた。

右条例制定に先立ち、昭和四六年七、八月頃、同市会議員に、同年九月頃、各排水区内の自治会長等に、それぞれ行田市当局から本件条例に関する説明がなされたが、関係住民に対しては、条例制定後である昭和四七年一月から同年三月までの間に、各地域ごとに設けられた会場で説明がなされた。

原告らの所有又は賃借する土地は、いずれも第一期及び第三期工事施行区域内に存在するものであつて、本件条例に基づく一m2当たりの負担金は、約二〇〇円となり、被告は、本件条例及び同条例一六条の委任条項により昭和四七年六月七日定められた行田都市計画下水道事業受益者負担金条例施行規則(行田市規則第一三号)六条により、原告らに対し、その主張するような受益者負担金賦課処分をなした。

以上の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

三そこで、本件処分につき、原告ら主張のような違法事由があるか否かにつき、原告らの主張に則して順次判断する。

1  本件条例は、都市計画法七五条一項にいう「著しい利益を受ける者」に該当しない公共下水道設置区域の住民らに対し受益者負担金を課するもので、右法条に違反し無効であるとの主張について

(一)  公共下水道は、都市生活より生ずる汚水を衛生的に処理し、都市の美観を保ち、汚水に基因する種々の伝染病の発生を防止し、都市の環境衛生を増進させ、都市を雨水による浸水から守り、また、汚水、雨水が公共下水道末端の終末処理場で浄化されることにより、河川その他の公共水域または海域が汚水等により汚濁されることを防ぎ、もつて、都市の生活環境の改善、公衆衛生の向上に寄与し、公共用水域の水質保全に資する公共性の強い施設である。

もとより、国又は地方公共団体は、住民福祉の増進に努むべき責務を有するものではあるが、このことから、地方公共団体が公共下水道事業を行なつた場合に、右事業の公共性が強いからといつて、その経費をすべて公費でまかなわなければならないものではない。

けだし、公共下水道の設置は、前記のとおりの公益上の機能を有してはいるが、他方、公共下水道設置という投資によって、排水区域内の土地上における生活汚水、し尿、雨水等が迅速かつ衛生的に処理されることに伴い、当該土地の効用が高められ、その土地の資産価値の増加をもたらすなど土地を所有若しくは使用する者に対し、特別の個人的利益を与えるものである。

都市計画法七五条一項は、「国、都道府県又は市町村は、都市計画事業によつて著しく利益を受ける者があるときは、その利益を受ける限度において、当該事業に要する費用の一部を当該利益を受ける者に負担させることができる。」旨定めているが、公共下水道事業も含めた国又は地方公共団体の行なう都市計画事業の性質上、右にいう「利益」とは、必ずしも金額として算定しうる経済的利益ばかりでなく、当該事業施設を利用することによつて生ずる生活上の利便をも含むというべきであり、また、利益が著しいものであるか否かは、当該事業施設により恩恵を蒙つている者とそうでない者とを比較し、社会通念により決すべきものと解するのが相当である。

前記下水道の普及状況に照らせば、公共下水道設置区域の住民は、下水道設置工事により、下水道を自己の使用に供することができる点で、非設置区域の住民に比して特別の生活上の利益を享受しているものということができる。

そして、右のような利益を受ける限度で、右工事区域内の住民が事業費の一部を負担しないとすれば、非設置区域の住民が租税として、その分も負担せねばならないこととなり、公平の観念に反する。

したがって、設置区域と非設置区域の各住民間の公平の見地から、受益者負担金制度は、その存在意義を有するというべきである。

そして、前記に認定したとおり、公共下水道の設置には極めて高額の経費を要し、その財源は、大部分が一般市費、国庫補助金等公費によりまかなわれているもので、かつ、事業の完成をみるまでには相当長期間かかるのであり、公共下水道が設置された土地と設置されない土地とを比較した場合、前者の土地所有者若しくは使用権者が、右のような特別な利益を享受することは明らかである。

また、公共下水道事業は、その排水区域が明確に定められ、その区域内のみの下水の処理を目的としていることから、右のような特別の受益者の範囲が当該区域内の土地所有者、使用権者に限定されるのである。

したがつて、公共下水道事業を行なう地方公共団体の長が、都市計画七五条に基づく条例により、前記のような特別の利益を受ける者から、負担金を賦課徴収して事業費にあてることは合理的というべきである。

なお、下水道法に受益者負担金制度の規定が存しないことは原告ら主張のとおりであるが、下水道法は必ずしも都市計画法の特別法とはいえないし、下水道法に受益者負担金制度の規定が置かれなかつたのは主として沿革上の理由によるものと解されるから、同法に受益者負担金制度についての規定がないことをもつて、公共下水道事業において受益者負担金制度を採用することが許されないとする根拠とはなし得ない。

(二)  そこで、さらに進んで、原告らが、本件公共下水道事業により都市計画法七五条にいう「著しく利益を受ける者」に該当するといえるかどうかにつき検討する。

<証拠>によれば、次のとおり認められる。

(1) 昭和四七年末における我国の下水道普及状況は、全国平均で18.5%、埼玉県下では、12.84%にすぎなかつたこと、行田市においては、市街地五五八ha(右当時)に対する排水区域の面積割合が、34.4%、処理区域の面積割合が33.6%であり、市街地人口に対する排水区域の人口割合は、61.0%、処理区域のそれは、57.6%にすぎないこと。

(2) 原告らは、行田市の施行する本件公共下水道事業第一期若しくは第三期工事とされた排水区内に所在する土地を所有若しくは賃借していること、右第一期工事対象区域(行田排水区)は、57.936ha、第二期工事対象区域(向排水区)は、46.907ha、第三期工事対象区域(忍排水区)は、115.809ha、第四期工事対象区域(佐間、谷郷、長野各排水区)は、284.59haであること、行田、向、忍各排水区は、いずれも旧市街地であつて、右土地では、従前汚水、滞水、浸水による被害が発生していたこと、右第一期、第三期工事により、その対象区域に土地を所有又は賃借する原告らは、本件公共下水道の設置によつて、汚水を迅速かつ衛生的に排除でき、その利用する土地の浸水が防がれ、便所を汲み取り式から水洗式に改造することが可能となるため、快適で衛生的な生活を送ることができるようになり、その結果、当該土地の利用価値が著しく増進し、その土地の資産としての価値もまた増加したこと、原告らが享受している右のような諸利益を土地価格形成への寄与度という側面からみた場合、原告らが所有又は賃借している土地の価格増加分をおおむね八%が、本件公共下水道設置によるものとみられること。

右認定に反する<証拠>は、<証拠>に照らし措信できず。また、<証拠>には、神奈川県鎌倉市における公共下水道による土地値上がりは、皆無かせいぜい一、二%にすぎないとの記載があるが、同号証で用いられた土地値上がり率の算定方法は、<証拠>のそれに比して、格別合理性があるとは認められないから、これをただちに本件に適用することはできず、他に、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によると、原告らは、本件公共下水道事業によつて、都市計画法七五条一項にいう「著しい利益を受ける者」に該当するものというべきである。

したがって、原告らの右主張は採用できない。

2  受益者負担金を賦課するについては、租税に準じ、賦課要件を厳格に定めなければならないのに、本件条例では、受益者負担金賦課の基準となる著しい利益の内容、程度、算定方法等が、具体的に明らかにされておらず、また、右条例で定められた負担金算定方法は、受益の限度に対応していないとの主張について

都市計画法七五条一項は、「その利益を受ける限度において当該事業に要する費用の一部を当該利益を受ける者に負担させることができる」旨定め、同条二項は、右負担者の範囲、徴収方法については、政令又は条例をもつて定むべき旨規定している。

右によれば、受益者負担金は、受益の限度で賦課額を定むべきこととなるが、具体的な金額は立法上の裁量に委ねられていると解すべきものである。

そうすると、前記のとおり、右法条にいう受益とは、必ずしも金銭として見積もりうる経済的利益に限らず、住生活上の利便をも含むと解され、右利益は、厳密に測定することは不可能であるから、結局、受益者負担金額は、受益の性質、程度、事業の内容、規模、事業費等を総合して考慮し、社会通念上、受益の限度をこえないと認められる範囲で決すべきものと解するのが相当である。

ところで、公共下水道事業のもたらす利益は、事業区域内全域にわたる生活環境の改善、右区域内住民の個人的な住生活の向上があげられるが、これを経済的に評価すると、その総量は、投下された事業費総額に対応すると考えられ、したがつて、事業費を受益者負担金算定の根拠とすることは、それ自体必ずしも不合理とはいえない。

そこで、本件についてみるに、前記認定のとおり、本件条例においては、受益者負担金の総額を事業に要する費用(ただし、昭和四六年度以前に施行された事業費を除いたもの)の五分の一とされていることが明らかである。

ところで、<証拠>によれば、次の事実が認められる。

すなわち、昭和三六年以降公共下水道の財政問題につき、市長会、関係官庁を中心として、財団法人日本都市センターに設置された下水道財政研究委員会(第一次ないし第三次)の提言によれば、公共下水道に要する費用を雨水排除に要するものと汚水排除に要するものとに分け、原則として前者は公費、後者は個人の負担とすべきであるが、前者についても、土地の利用価値の増加、地価の値上がり等のかたちで、特定の者が受益する場合は、その者に負担を課するのが適当であるとされている。そして、第一次及び第二次の同委員会の提言では、負担金総額を事業費の三分の一ないし五分の一とするのが妥当であるとされたが、その後、公共下水道に対する社会的要請が高まつてきたため、昭和四八年六月の第三次委員会提言では、終末処理場等の施設の機能の高度化、事業費の高騰により、三分の一ないし五分の一の賦課率によると単位負担金額が著しく高額となり、右のような賦課率が事実上維持し難くなつている実情を指摘し、これをふまえて、単位負担金額を条例で具体的に定めるべきこと、従前、受益者負担金が総事業費の一部を賄うものとされていたのを末端管渠の事業費に使途を限定すべきであるとするなど第一、第二次委員会の提言に修正を加えた。

なお、公共下水道事業につき、受益者負担金制度を採用している都市は、昭和四七年度においては二三二、同四八年度においては二六三であつたが、それからのうち、殆どは、負担金総額を事業費の三分の一ないし五分の一と定めている状況にある。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、本件条例が、受益者の負担金総額を昭和四六年度以前に施行された事業に係る費用を除いた事業費の五分の一とし、残余を市費、国庫補助金、地方債等他の財源で賄うこととしたのは、妥当であると認められる。

したがつて、原告らの右主張は採用できない。

3  本件処分が都市計画法七五条七項に違反し、又は公序良俗に反するとの主張について

都市計画法七五条七項は、「負担金及び延滞金を徴収する権利は、五年間これを行なわないときは時効により消滅する。」と定めているところ、右規定は、受益者負担金賦課処分によつて国又は地方公共団体に発生した徴収権を右処分後五年間行使しなかつた場合、右徴収権が時効消滅する旨を定めたものであつて、原告らの主張するような負担金を賦課する権限それ自体が消滅することを規定したものではない。

したがつて、原告らが本件公共下水道事業の第一又は第三期事業計画区域内に土地を所有又は賃借する者であるからといつて、これら原告らに本件受益者負担金を賦課することが都市計画法七五条七項に反し、又は公序良俗に反するとはいえないから、原告らの右主張もまた採用できない。

4  本件条例及び本件処分が、市民に対する信義に反し、憲法三一条所定の適正手続の準則に反するとの主張について

(一)  原告らは、行田市と第一ないし第三期工事施行区域の住民との間に、受益者負担金を賦課しないとの法的関係が成立していたと主張するが、行田市の本件公共下水道事業が昭和二五年に開始されてから本件条例の制定に至るまでに二〇年以上の歳月があるけれども、前記認定の本件公共下水道事業の経過に照らすと、原告らのいうような法的関係が成立したとはたやすく肯認し難いし、本件全証拠によるも、原告らの右主張を裏づけるような事実を認めることはできない。

したがつて、本件処分が市民に対する信義に反するものということはできないから、この点に関する原告らの主張は、理由がない。

(二)  原告らは、本件条例の制定手続及び本件処分が、憲法三一条に違反すると主張するところ、原告らの右主張の趣旨は、必ずしも明確ではないが、本件条例制定にあたり、事前に、個々の受益者に対し、市当局より十分な説明を受け、意見を述べる等の機会が与えられなかつたことをいうものと理解できなくはない。

しかしながら、条例は、住民により選挙された地方議会議員によつて事前に審議がなされたうえ、議会による議決を経て制定されるものであつて、住民としては、議員を通じて個々の意見を審議に反映させる機会を付与されており、それ以上、条例制定に関し、憲法上の適正手続の要請に合致するか否かを問題とする余地はない。

したがつて、本件条例制定にあたり、原告ら個々の被処分者に、事前の説明、聴問等を受ける機会が与えられなかつたものとして、これをもつて、ただちに、右条例が違憲、違法となるものではない。

よつて、原告らの右主張もまた理由がない。

5  第四期工事は、第一ないし第三期工事とは別個の新規事業であるから、第一、第三期工事区域の住民である原告らに対して本件処分をなしたのは失当であるとの主張について

都市計画法は、受益者負担金を賦課する対象及び時期につき、何ら具体的な定めをおいていないから、これらについては、条例又は政令に委ねられており、条例又は政令の制定に際しての立法者の裁量の範囲内にあるものというべきである。

したがつて、受益者負担金の賦課の対象、時期に関し、著しく不公平、不合理な条例又は政令が制定された場合は格別、そうでない場合は、専ら立法政策上の問題にすぎない。

ところで、前記のとおり、本件条例は、制定当時すでに工事を完了した第一期ないし第三期工事の施行区域を昭和四七年度の賦課対象区域とみなす旨定めているが、昭和二五年に本件公共下水道事業が企図されて以来、昭和四六年まで逐次第一、第二期工事、第三期工事の大部分及び行田市緑町地内のポンプ場、終末処理場が完成したこと、そこで、当初の計画に組み入れられてはいたが、その後右計画から除外されていた大字佐間の一部等の地区、市街化が急速に進行しつつある大字長野、大字谷郷地区に、公共下水道設置が計画され、所定の手続を経たうえ実行に移されたこと、昭和四六年策定の県営荒川左岸北部流域下水道が完成(昭和六五年度の予定)するまで、右終末処理場で、各排水区の下水がすべて処理されること、昭和四七年以降も第一ないし第三期工事施行区域内で管渠埋設等の工事が行なわれていることが明らかである。

右本件公共下水道事業の実施の経緯によれば、第四期工事は、第一期ないし第三期工事とは別の新規事業とはいえず、これと一体をなすものと認められることができ、第一ないし第三期工事は、公費で賄われ、右工事施行区域の住民は、第四期工事施行区域の住民に先行して、公共下水道による利益を得ているのであるから、第一期ないし第三期工事施行区域の住民に、第四期工事の事業費の一部を負担させることは、住民の公平を図るゆえんでもあり、不合理とはいえない。

よつて、原告らの右主張もまた理由がない。

四以上のとおりであるから、本件処分には、原告ら主張の違法はなく、適法のものということができるから、本件処分の取消を求める原告らの本訴請求は、理由がない。

よつて、原告らの本訴請求は、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(薦田茂正 小松一雄 小林敬子)

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